去る2021年大晦日23時45分より、本堂前の鐘楼に於いて除夜鐘供養が営まれました。年越し寒波の予報通り、当日は午後から冷たい風が吹き始めましたが、風にも零下の寒さニモマケズ、読経回向と梵鐘を撞く供養の音が山内に響きわたりました。
除夜の鐘に引き続き、本堂に於いて2022年元旦の修正会・大般若転読をお勤めしました。大般若転読の法会(大般若会 だいはんにゃえ)では、特別に道場のご本尊として、本堂の内陣に「十六善神(じゅうろくぜんじん)図像」をお祀りします。十六善神とは、一説には十二神将と四天王を合わせた尊格とされ、仏の完全なる智慧について説く般若経典とその教えをたもつ者を守護される神々のことをいいます。当山に伝わる三幅対の「釈迦三尊十六善神図」では、上の写真の通り、真ん中の絵軸にお釈迦様と文殊菩薩および普賢菩薩がそれぞれ結跏趺坐された三尊像が描かれ、左右の絵軸に十六善神および『大般若経』600巻を漢訳された玄奘(げんじょう)三蔵のほか、深沙(じんしゃ/じんじゃ)大将、法涌(ほうゆう)菩薩、常啼(じょうてい/じょうたい)菩薩の尊像が描かれています。
例年通り鐘撞き前にご挨拶を賜り修正会にもご参列いただいた菊地栄太郎総代長とともにまず道場となる本堂を浄め、ご本尊様にお供えを献じた後、参列された方々や檀信徒の方々の1年の幸福と天下泰平などを願って大般若転読のご祈祷を行いました。『西遊記』の三蔵法師のモデルとして有名な玄奘三蔵は、中国の唐の時代にあたる西暦660年の元日から約3年と10か月の時間を費やして、『大般若経』600巻の訳業を完成されたと伝わっています。転読とは、その『大般若経』の全経文を正しく読誦する真読(しんどく)に代え、一定の時間内に略読する作法のことです。僧侶は略読法として、短い経文や陀羅尼を声高にお唱えしながら、手にした折本の経巻を左右や前後に翻すようにぱらぱらと開き流す転翻(てんぽん)を行います。日本における大般若転読の歴史は古く、遅くとも8世紀初頭には、すでに大規模な法会が営まれていたようです。転翻の際に生じる風は、無病息災を運ぶといわれています。参列された方々のお身体へ、今年も「般若の梵風」をお送りしました。
修正会おわって朝課の後、引き続き道了堂に於いて元旦の祈祷会をお勤めしました。昨年の同時期はちょうど新型コロナの第3波の渦中でしたが、今年は東京と神奈川から来られた若手2名が満天澄みわたる美しい星宿の下、男坂の山道を上って参列されました。元旦の道了堂が3名以上の密になったのは、実に5年ぶり。まだ感染の再拡大が懸念されますが、今春5月15日に予定されている道了尊の本大祭に向けて幸先の良い年明けとなりました。三朝祈祷会とも称される修正会・大般若転読の法会と道了堂の祈祷会は、いずれも元旦から3日まで住職とお勤めしました。終えて3日、それぞれのご祈祷の功徳が込められたお札などを寺の年賀としてお包みする年始恒例の袋詰め作業が行われました。お忙しい中、年末年始にかけてお手伝いいただきました方々に心より感謝申し上げます。
謹賀新年。2022年が皆様方にとって素晴らしい1年となりますよう祈念申し上げます。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。合掌〈副住 文央〉