小晦日の30日お昼ごろ、お正月準備の飾り付けと掃除の最中、観音堂の座布団の下から住職が発見した赤ちゃんヤモリです。「かわいい!」という声と「無理!」という悲鳴の両方が飛び交いそうですが、見た目の好き嫌いはともかく、本来ニホンヤモリは排泄物以外、人を困らせるようなことのまったくない益獣。そうはいっても、苦手な方はごめんなさい。完全なる夜行性のヤモリさん。夜間のブラヤモリにそなえて布団の下で仲良くお昼寝中だったのか、長い冬眠モードに入っていたのか。私はヤモリを見つけると、体をひっくり返して小さな足裏を触りたくなりますが、さすがに今回はこらえました。
実はヤモリの小さな足裏の指先には、肉眼では見えない無数の毛がびっしり生えていて、その特殊な構造のおかげで、忍者のように足跡を残さず垂直な壁にも張り付くことができるそうです。文字通り最先端の吸着技術。新しい接着剤やテープなどの開発に応用されているといいます。長林寺サンクチュアリはこうした生物模倣(バイオミメティクス)と呼ばれる技術の宝蔵ですが、他の生物を傷つける毒や牙や爪といった武器を持たないヤモリさんは、模範中の模範格といえるでしょう。縁起の良い「家守」や「守宮」の漢字はもちろん、ヤモリの中国語名は、来たる寅年にふさわしい「壁虎 ビーフー」。獲物となる蛾や蚊などの眼には、壁を這って虎視眈々と狩りを行う猛獣に見えているのかもしれません。その発音が「避禍 ビーフゥォ」(禍を避ける)や「庇護 ビーフー」(かばい守護する)の語に似ていることから、特に自家用車などに貼る厄除けステッカーの絵柄に選ばれています。「必福 ビーフー」(きっと幸福になる)にも通じるため、3匹の小壁虎はまさに観音堂の新年をことほぐ三福対。座布団を元に戻して再びお休みいただきました。子ヤモリたちが無事に冬を越して新緑の春を迎えるころには、悩ましい人間界の疫禍も好転していますように・・・
皆様もどうぞ穏やかな良いお年をお迎えください。では、また来年。合掌〈副住 文央〉