寒気到来。昨晩20時ごろから強い風が吹き始め、いよいよ冬らしい空気の訪れを肌に感じながら日本海側の雪模様に思いを致す今晩です。ストーブ2台に火を入れた日中の本堂内の気温が10度前後。肌寒くなったとはいえ、底冷えするほどではありません。風がやや収まっていた朝方、参道の落木を片付け、将棋倒しになっていた墓地入口の閼伽桶(あかおけ)を直し、頭巾が飛ばされて行方知れずとなっていた水子地蔵様のお召し替えをしました。篤信のお檀家さんによるお手製の赤い頭巾と前掛けです。お参りのたびにお地蔵様の様子を気にかけてくださり、折にふれてご奉納いただいています。このたび頂いた頭巾は、お隣の六地蔵様もうらやむあご紐付き。もう風で飛ぶ心配もありません。いつも有難うございます。心なしか腕の中で前掛けにふれて眠る水子様もこれまで以上に安らかなご表情に見え、快適に新年を迎えられることを喜ばれているようでした。
ところで、お地蔵様のお召し替えをする少し前、本堂前の庭の片隅で偶然「あひがたき」生き物に鉢合わせしました。なんと、キツネさん。記念撮影するいとまもなく、私の足音を聞くやいなや、竹林前の墓地の小道を驚くほど軽やかな身のこなしで走り抜け、裏ののり面を駆け上っていきました。一目見た時は赤柴の迷い犬かと思いましたが、5メートルほど先で逃げ足を止め、自分が何物から逃げたのか確認するように数秒ほど私の方を振り返ったその面差しは、まごうことなきキツネ顔でした。冬毛と思われるふさふさした長い尾を垂らし、ところどころ栗皮色の毛が混じった体はやせ細っていました。山に食べ物が無いのでしょう。やはり野生動物たちの生息圏と私たち人間の生活圏との距離が、かつてないほど近づいてきているように思います。キツネについて調べてみたところ、日本に生息するのはアカギツネという種のみで、そのうち本州に分布するのはホンドギツネと呼ばれる亜種とのこと。近ごろ頻繁に見かけるイノシシやシカの他、タヌキやハクビシンには数回、サルにも一度だけ境内で遭遇したことがありましたが、野生のキツネさんは初めてでした。キツネが人に化けて出るという言い伝えは、古く仏教の伝来とともに、大陸の文物を通して日本に広まっていったといわれています。寺の境内で化けて出るのはウェルカムですが、イノシシ同様、過激な穴掘りやいたずらだけはご勘弁願いたいです。きっと私たちが正しく功徳を積み続ければ、万物を抱く大地の蔵にたとえられるお地蔵様のお力が守ってくださることでしょう。〈副住 文央〉